夢空界

夢空界 天野こずえ短編集/天野こずえ/全1巻


天野こずえ先生の短編集。



・前夜祭
文化祭の前夜、木村という少年が教室で不思議な2人組の女生徒に出会うというお話。
女生徒の1人は10年前の文化祭の前日に事故死した美夜という幽霊。
もう1人の詩織という女生徒は、木村と同じで偶然美夜のテリトリーへと迷い込んで来てしまい、
美夜によって永遠に文化祭前日に囚われてしまっています。

美夜には好きな先生がおり、前夜祭の最中に中庭へと呼び出して告白をしようと思っていました。
そして前夜祭が始まり、中庭へと向かっている最中のこと。
彼女を嫌っていた他の生徒に足を引っ掛けられ、階段から転落して死んでしまったと。

先生に告白できなかったことだけが心残りだという生前の美夜の未練を叶えるため、
木村は先生の名前を聞いて美夜を成仏させます。

これで詩織は解放された…はずでしたが、彼女が迷い込んだのは8年も前のことであり、
すでに肉体は消滅してしまっていて彼女も幽霊だったというのが判明。
詩織は人見知りで友達は1人もおらず、はじめて友達になってくれたのが美夜だったと。
美夜と過ごした8年間はそれまで生きてきた13年間より幸せだったと言い残し、彼女も成仏するのでした。

文化祭当日。木村は先生の所へ行き、美夜のことを聞きます。
とても良い子だったという先生に木村は彼女の思いを伝え、文化祭が始まるのでした。



・刹那の夏
高校受験を控えた中3の夏休み。八ツ橋という少年はノートを取りに学校へやってきます。
そこで見知らぬ真っ白なセーラー服に身を包んだ女生徒を目撃。
逃げる彼女を追いかけますが、すぐに見失ってしまいます。
身軽でフワフワした動きをしていることから、八ツ橋は彼女を幽霊だと思い込むのでした。

背後から急に現れた彼女にノートを取られてしまい、再び追いかけっこが始まります。
その最中、彼女になぜ勉強ばかりをしているのかと聞かれますが、
自分の意見がなく親や先生の言われるままに行動をしていた八ツ橋は答えられないのでした。

学校中を走り回り、屋上へとやってきた所で体力が尽きて倒れこんでしまいます。
勉強ばかりしていたことから空の青さをすっかり忘れ、久しぶりに全力で走ったことで気持ち良さを感じる八ツ橋。
そして再び八ツ橋の前に現れる彼女。
彼女は同じように中学の3年間をずっと勉強をして過ごし、入試1週間前に肺炎をこじらせて死んでしまったとか。

そんな自分の経験から、中学という時間は一生に一度しかないので後悔をしてほしくないと言い、
八ツ橋にノートを返して彼女はいなくなるのでした。

時は流れ、2学期。八ツ橋は勉強だけでなく遊びも全力でこなし、充実した夏休みを過ごしてきたのでした。
そして朝のホームルームで先生から転校生の紹介。
教室に入ってきた夏樹光(なつきあかり)という名前の女生徒は、八ツ橋が夏休みの学校で出会ったあの子なのでした。

放課後、八ツ橋は光と2人で下校をします。
光は新しい学校の下見に来ていただけで、八ツ橋が勝手に幽霊だと勘違いしていたのを面白がって騙したと。
ですが3年間ずっと勉強ばかりをしてきて、入試前に倒れて受験をできなかったというのは本当だと。
つまり、浪人をして年齢的には1歳上であるとのことです。

八ツ橋は「今の自分には「答え」を見つけることはまだできないけど、全力で走ることならできる」と言い、
勉強会の後に遊びに行く約束をして光を家へと誘うのでした。



・夢空界
文化祭の1ヶ月前。演劇部の出し物で主役をやることになった開夢(はるむ)。
ヒロイン役にふさわしい人物がおらず、人選に苦慮していると演劇部の扉の前をうろうろしていた女生徒を見つけます。
彼女は開夢と同じ3年生で、名前は華音(かのん)。ずっと休んでいたけれど演劇部の一員だということです。
その可憐な容姿からすぐにヒロイン役に決まり、稽古が始まるのでした。

華音は中1に4月にしか部活に来ておらず、開夢に「私のこと覚えてる?」と質問をします。
「なんとなく」と答える開夢に「じゃあ…あの約束!覚えてるよね」とさらなる質問を浴びせますが、
開夢にはその約束が思い出せないのでした。

華音は入部してすぐに体を壊して入院をしていたため、ずっと部活を休んでいたとのことです。
卒業まで半年しかないこの時期に戻ってくる気になったのは、
空白の2年半を埋めるために大好きな演劇部のみんなと思い出を作りたいからだと。

文化祭まで1週間に迫った日の稽古後、ぐったりして休んでいる華音。
心配して開夢が近寄ると、一瞬彼女の姿が透けて見えるのでした。

文化祭前日。
華音の演技に鬼気迫るものを感じた開夢は心配をして部長に相談しますが、杞憂だと一蹴されます。
そしてその日の夜、開夢はベランダで華音と会話をします。

華音は演劇部に入部した時の自己紹介で、開夢が日本一の俳優になりたいと自信を持って話す姿を凄いと思ったと。
自分も同じように夢に向かって頑張りたいと思っていたけれど、身体を壊してしまったと。
そして華音は、本当は演じるよりもシナリオを書く方が好きなんだと開夢に告げます。
それを聞いた開夢が「そうなんだ」と答えると、「やっぱり覚えてないんだ…」と華音は言うのでした。

いよいよ文化祭当日。
ラストシーンで華音は「これは私の今までの思いを綴った手紙です。受け取ってください」というはずのセリフを、
「これは私の2年半の想いを綴った手紙です。受け取ってください」と言い、手紙ではなく手帳を開夢に渡します。
その手帳を見た開夢は、全てを思い出すのでした。

入部まもない中1の4月、華音がシナリオを書いている後ろを通りかかった開夢。
開夢はお願いをして華音のシナリオを見せてもらうと、その面白さに続きが読みたくなってそれを華音に伝えます。
自分のシナリオをはじめて面白いと言ってもらえた華音が喜んでいると、
開夢は自分の持っていた手帳を渡し、これにシナリオを書いてくれと言います。

そして開夢は華音と約束をするのでした。
「いつか…華音が書いたシナリオで俺が主役をやる。大丈夫!夢はいつか必ず開く!
俺の開夢という名前にはそういう意味が込められているんだ!」と。

あの時の少女が華音だったというのを思い出し、劇を終えた開夢は舞台裏に華音を迎えに行きますが、そこには誰もいません。
部長や他の生徒たちに聞いても、誰も華音の行方を知らず、華音のクラスも知りません。
嫌な予感がして職員室で先生から名簿を見せてもらう開夢。
先生はその子は自分のクラスだと言いますが、2年半前からずっと休学届を出していて今も入院していると言うのでした。

急いで病院に駆け付けた開夢は華音の入院している病室を見つけ中に入りますが、そこには泣き叫ぶ母親の姿が。
父親によると、華音はついさっき亡くなったと。
重度の白血病でこの2年半、一度も病室から出ることはなかったということです。
そして入院依頼ずっと肌身離さず持っていたのが、開夢の手帳だったと…。

時は流れ、開夢は高校へ入学。
演劇部の自己紹介で一人一人抱負を述べることになり、開夢の番がやってきます。
手帳を掲げた開夢は、「この…友達が書いたシナリオで、舞台を大成功させたいです」と述べます。
そして心の中で「華音見ていてくれよ…俺たちの夢は必ず開くからな」と誓うのでした。



・小さな聖夜
12月24日、クリスマスイブ。
野良猫のグリムは、ロニという子猫に懐かれます。どうやら飼い主とはぐれてしまったようですが…。
自分が飼い主から捨てられた経験のあるグリムはお前は捨てられたと言いますが、ロニはそれを信じません。

一度はロニを見捨てようとしたグリムですが、犬に襲われそうになったロニを見て結局助けてしまうのでした。
その後は2匹で行動をしますが、ロニが保健所の人間に捕まって連れていかれてしまいます。
グリムは危険を承知で保健所に忍び込み、ロニと他の猫たちを救出。

グリムはロニに一緒に生きていこうと言いますが、飼い主のことを信じているロニはそれを拒否。
ロニはグリムがまだ飼い主のことを信じていると指摘し、クリスマスイブなので願えば必ず奇跡は叶うと言います。
やがてロニを探す飼い主が現れ、ロニは飼い主の元へと戻っていったのでした。

グリムは元々飼い猫で、遊びに出ている間に家の人たちが引っ越してしまって1匹になったという経緯があります。
かつて住んでいた家へ戻ってみると、そこには明かりが。
急いで駆け寄ってみますが、中にいたのは見知らぬ家族。新しく引っ越してきたのです。

グリムが消沈して街を彷徨っていると、背後から何者かに捕まります。
保健所の人間に捕まったと思ったグリムは抵抗をしますが、それはかつての飼い主である子供でした。
引越し先がペット禁止の家で、本人はグリムを置いてきてしまったことに気付いていなかったと。
親からプレゼントとして何が欲しいかを聞かれ、グリムと答えてこうして迎えにきたのだそうです。
こうしてクリスマスイブに奇跡は起こり、グリムも無事に飼い主の元へと戻っていったのでした。



・いちごちゃんパニック
自然が豊かなあいす村に転校してきた少年、バニラ。
同じクラスに「いちごちゃん」という、マジカルガムを使って自分の念じたものを作り出せる不思議な少女がいます。
しかし大半のものは失敗作で、周囲を巻き込んではちゃめちゃな騒ぎに。
バニラもそれに巻き込まれていく…というお話。



・感想
浪漫倶楽部と同じく、学校を舞台とした作品が多い。
出てくるキャラが違うだけで、話の展開も浪漫倶楽部のように不思議系のものばかり。

「前夜祭」
詩織も実は幽霊だったという展開は…意外なのか?
最初の段階で美夜と2人とも幽霊だと思っていたから個人的には意外性はなかった。
でも話の流れは悪くないし、終わり方も良いのでなかなか。

「刹那の夏」
同じ幽霊(?)もの。こっちは少し意外性があった。
ストーリー自体には特に思うところはなく、佳作という評価。

「夢空界」
表題にもなっている作品。自分はこれが大好きでして。
ガンガンに掲載された読み切りなんだけれど、初めて本誌で読んだ時にすごい感動してファンになった。
何度読んでも良い作品なんだよなぁ。これ1作のためだけでも読む価値のある短編集だと思う。

「小さな聖夜」
これまでの3作が日本の学校を舞台にしていたのに対し、こちらは異国ものでさらにキャラが猫。
擬人化モードと普通の動物としての猫モードの2種類を使い分けて描かれている。
作者的にはお気に入りのようだけど、自分はあまり面白いとは思わなかった。

「いちごちゃんパニック」
過去4作が感動系ストーリーだったのに対し、これは完全なドタバタギャグもの。
登場キャラも先生以外はみんな子供で、絵自体もデフォルメされている。
正直、個人的には一番面白くない作品。

巻末に「ものぐさ倶楽部~番外編~」というあとがき有り。
浪漫倶楽部でも「ものぐさ倶楽部」はあったけど、短編集ということで番外編。
この本に収録されている5作品の思い出を振り返っています。

カバー下(表)は5作品の主人公大集合の描き下ろし。表紙がヒロイン大集合なので、その対比としてでしょうな。
カバー下(裏)は浪漫倶楽部と同じで、5作品を写真という形で描き下ろしたもの。

最後に掲載情報。
前夜祭…増刊フレッシュガンガン平成6年春季臨時増刊号
刹那の夏…増刊フレッシュガンガン平成6年秋季臨時増刊号
夢空界…月刊少年ガンガン平成6年11月号
小さな聖夜…増刊フレッシュガンガン平成7年冬季臨時増刊号
いちごちゃんパニック…増刊フレッシュガンガン平成8年冬季臨時増刊号
[ 2012/12/10 ] エニックス漫画 | TB(0) | CM(0)

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